それ、調べたらわかりますか?

橋下元大阪市長と乙武氏との番組で、またぞろ「今の時代、調べたらわかるのに何で覚えんといかんの?」がでてきた。

 こういう発言が定期的に発信される背景には、詰め込み教育を受けてきた世代の一定層に教育へのアンチテーゼとして、反体制っぽい共感が得られることがあるからだろう。

 ただ、この「調べたらわかる」には注意しなければならない点が多々ある。

 まず、「調べたらわかる」ことだが、橋下氏も乙武氏も早稲田大学の出身であり、基本的に「調べなくてもある程度のことは知っている」人である。もちろん、当時の早稲田大学と言えば、社会科の難問珍問が騒がれた時代でもあり、二人とも「なんでこんなことまで覚えないかんの?」と思っていたかもしれない(ちなみに、今も昔も、早稲田の社会で難問珍問は不正解でも他がしっかりできれば合格できます)。

 「サイン、コサインなんて」という発言も、橋下氏は実際にはそれが建築など様々な分野で実用的に使われていることは百も承知で話しており、「いやいや、工業系には必須でしょ」みたいな反論はあまり意味がない。実用的に使っていない大半の人へ向けた一種のデマゴーグだからだ。彼らのような反知性主義の方々は、こうした言説を鵜呑みにして、「学校の勉強なんて役に立たない」だの「ググればわかるから覚えなくて良い」だのと言い出す人たちを高みからせせら笑っているだろう。

 なぜなら、「調べたってわからない」からだ。

 例を挙げよう。「摂関政治」について調べたいと思ったとき、インターネットを使って用語の意味を調べることはできる。
さて、「摂関政治」について調べた結果、上記のような解説をみつけた。この解説を読んで摂関政治について理解ができた人は以下の用語をすべて知っている人だけである。

平安時代、藤原氏、藤原北家、良房、天皇(!)、外戚、摂政、関白、内覧、要職、占める、実権、代々、独占、政治形態、

 歴史用語と語彙力を総動員。
 平安時代を知らないなんて、小学生でも習うでしょ、と思われるだろうか?
 だって、調べたらわかるんだから覚えなくても良いんでしょ?
 先日の即位の礼では、Twitter上に「天皇って何?」というつぶやきが数多く見られた(もちろん天皇の制度についての批判的な意見ではない)。

 小学生で習う摂関政治という語を調べて理解するためには、これだけのことを事前に知っている必要がある。当然、上記の用語で知らないものはまた調べたら良いのだが、同じことの繰り返しになることはおわかりいただけるだろう。

 基礎的な教養と知識、語彙がなければ、調べたってわからないのである。

 そして、「調べたらわかる」と言っている人たちは、そのことを十分に承知している。知っていて、あえて煽っているのだ。

 「私たちが間違ったことを言っているということ、調べたらわかるよね」と。


 なお、教育において、全面的発達の可能性という観点から、将来的に何者にでもなる可能性を持つ子どもたちに基礎的な幅広い教養を身につけさせることについては、またの機会にしよう。